クエチアピン著効例

(Case)63歳男性
 独身で一人暮らしの方で、60歳に定年退職。次の職を探すもなかなか次の仕事が見つからなかったようです。弟さんが助けになろうとパソコン手技を教えるも、覚えることに手間取ってあれ?と感じていたようです。この1年で急速にもの忘れ症状が進み、つい先日からケアハウスに入居することになりました。2週間前からは易怒(怒りっぽさ)も出ていると言います。

 

 診察時には、ソワソワととにかく落ち着かない雰囲気でした。
「そうだねそうだね。いいんじゃないの?」「それそれそれ!流れがおかしいよ。」
多弁で色々な言葉を口にしますが、内容は聞かれたことと関係がない内容だったり。「さくら」を復唱するようお願いすると「たくら」と言葉が置き換わってしまう‘錯語’という症状も見られました。
 長谷川式認知症スケールを試みるも、途中で激高してしまい、最後まで検査を終えることは出来ませんでした。一人で出て行ってしまいます。
私の顔を指さしながら
「おまえ!それはぜったい間違っているよ!覚えていろよ!!!」

 

クエチアピン著効例
怒鳴っている姿に、久しぶりに身の危険を感じました。

 

 診断はピック病(前頭側頭型変性症の1タイプ)。若年発症でエネルギーが非常に強いので、早急にエネルギーを和らげなくては、周囲の方がケガをする恐れがあります。こんな時の第1選択として当初はコントミン(12.5mg)(1-1-1錠)を開始しましたが、この方には合わなかったようで、あまり改善効果を認めず。
クエチアピン著効例 クエチアピン著効例

 

 第2選択であるクエチアピン(12.5mg)を開始。1日6錠を上限として、近くで見ている職員に量を調節してもらう家庭天秤法をお願いしました。(コウノメソッドの上限としては3Tなのですが、若くてエネルギー爆発の様に、過鎮静に気を付けながら上限を引き上げてしまいました)

 

クエチアピン著効例

 

余裕があれば次の一手は1つずつ順番に試したいところですが(症状変化が何に由来するのかを把握しやすいため)この方は待ったなしの緊急性であったため、サプリメントであるフェルガード100Mも同時に開始しました。

 

 1ヶ月後、ケアマネージャーより「クエチアピンの方があっているようでいいです。本人らしい明るさが戻ってきています。」との報告を受け、ホッとしました。現在クエチアピン(12.5)(2-1-1)で経過を見ているようです。以前は連日のように怒っていたのが、現在は週1-2回と頻度が激減。それも入浴介助時、相性がよくない特定の職員が対応している時とのこと。
 診察室でも効いていることは明らかでした。前回診察のように激高することなく、私とケアマネージャーや弟さん夫婦との話し合いを、うんうんと頷いたり「そうでしょう?よくなったでしょ?」などと言いながら、座って聞いているのです。その表情の優しいこと、先日とは別人のようでした。ピック病の方は、2度童(にどわらわ,昔で言う子供がえりのこと)と表現されるように、理性の座である前頭葉が萎縮した結果、子供のように無邪気で人懐っこい表情を浮かべる一面もあります。今回のエネルギー制御の主役はクエチアピン、優しい笑顔にはフェルガードが寄与しているかな、と考えています。
 コントミンが果たして本当に合っていなかったのか、若くてエネルギーが過剰となっているため 37.5mgでは用量不足で太刀打ちできなかったのかはわかりません。
遠方に住む弟さん夫婦も非常にほっとされたようで、何度も頭を下げて喜んで下さいました。さらなる改善のために、抑肝散を追加して、経過を見ることとしました。
血糖値の急上昇→急下降が、不穏症状の引き金になることがあるとお話し、単純糖質の過剰摂取を控えるように食事指導も行っています。まだまだ若くて先が長い方なので、できるだけ薬を最小限として、根本的にいい方向にもっていくよう力を尽くします。