アルツハイマー型認知症と釣藤散

 90歳台後半の女性との、素敵な出会いがありました。

 

 この方は、受診一年前の秋から、連日のように「頭が痛い」「死にたい」「物を投げつけたい」「自分が誰だかわからない」「吐き気がする」と訴え、毎日のように深夜3時頃に家族を起こしていたようです。近隣のかかりつけ医を受診するもらちが明かず、大学病院を2回受診(教授の診察)するも異常なしと言われ解決せず。12月には転倒して骨折するなど、心身ともに一気に状況も悪くしていきました。
 息子さんが色々調べ数十冊の本を乱読。コウノメソッドをキーワードに昨年の8月下旬に初めて当院を受診されました。
 受診される直前には、息子さんに対して「あんた誰?怖い人?」「本当に〇〇か?怒らないか?」と聞くなど、認知機能低下を疑わせる発言もあり。

 

★もの忘れ外来
態度:不安は訴えるものの、疎通性はよく礼儀正しい。
長谷川式認知症スケール:20点 遅延再生 6/6
失語はなし。
頭部CT:年齢を考えると、萎縮はむしろ控えめ, ラクナ梗塞散在
ピックスコア0点 / レビースコア6点(寝言・嚥下障害・日中の傾眠・歯車様固縮)

 

 長谷川式はカットオフポイントである20点とボーダーライン上にあるとは言え、遅延再生は6/6と野菜は10種も回答可能であり、短期記憶に著しい障害があるとは考えませんでした。超高齢であることを考えても、この方には中核症状改善薬は必要ないと判断しました。
ただ身体症状のつらさもあって精神的な混乱はそれなりにあり、なんらかのレスキューは必要です。息子さんと相談の上で、頭痛を改善する効果がある漢方薬、釣藤散(ちょうとうさん)を試してみることにしました。

 

 1ヶ月後、ご本人と息子さんが明るい表情で受診しました。釣藤散を開始して40分ほどで、吐き気やめまい、頭痛がかなりよくなったと言うのです。頭痛の訴えは、その一か月の間にたった一度とのことですから、劇的改善と言っていいでしょう。そればかりか、体の動きがよくなる、間違い探しや塗り絵などにも意欲的に取り組まれる、ベッドで寝ていることもなくなったと、全体的に調子がよくなっているとの嬉しいご報告でした。漢方は、下腿にむくみが出てきたことを機に息子さんの判断で休薬され、そのままよい状態を維持されているとのことです。
「患者側も最終決戦の排水の陣で、デイサービスの変更、患者への接し方を本腰を入れ対応してきた。」
とのことですから、ご家族が環境を整えられ愛情を持って取り組まれたことが相乗的によい方向に背中を押したことは間違いありません。

 

(抜粋)

・先生のユマニチュードによる患者に対する対応が患者を安心させて、ニュートラルコンディションになり、なんでも受け入れる素地ができたと思う。      
・どぶ川に薬を入れても仕方ないが、清流になったところでの抑肝散や釣藤散の投薬だったので、少量、短期で精神の安定が図られたと思う。
・フェルラ酸、ガーデンアンゼリカ(フェルガード)は奏功していると思う。

ご本人からのリクエストとのことで一緒に写真を撮って頂きました。
「写真は救ってくれた主治医として部屋に飾ります。元気がなくなった時、それを見ることが強力なカンフル剤になります。」
こんなメッセージを頂き、くすぐったいような嬉しいような幸せな気持ちを味わわせて頂きました。

 

●釣藤散について
アルツハイマー型と釣藤散

 

 釣藤散は血管抵抗の増加による血圧の上昇や、脳内の循環障害に対して、血流を改善させたり、血管抵抗を改善して血圧を下げる効果があります。頭痛・頭重感が消失することが多いのですが、複数の改善ケースを見ていると、単なる頭痛改善以上の精神的なプラス効果を感じます。元気になった、意欲が出てきたなどの症状改善が期待されます。

 

 また木村武実先生によれば、MCI(軽度認知障害)の方においては、アセチルコリンの活性化、活性酸素の抑制、アミロイドβ凝集抑制などの多面的な作用により、認知症症状の進行予防効果が期待されるとも言われています。

 

 あらためて漢方薬のパワーの凄さを感じます。