効いたら止めろ

 

 私が担当しているレビー小体型認知症の患者さんで、アリセプトという中核症状改善の薬を3mgから5mgに増量したところ、しばらくして歩行が悪くなって転倒をくり返すようになった方がいました。その後主治医の判断で5mgから8mgに増量されたところ、今度は食事が摂れなくなってしまいました。

 

 幸い家族が本人の様子をよく観察していて、薬を増やしてからこういう変化が起こったため薬を減らしてほしいと主治医に訴えましたが、
「増量することに決まっているんです。」
と言われて、こりゃダメだと当院に相談に来られました。

 

効いたら止めろ

 

中核症状を改善する薬というのは、増やせば増やすほどよくなる、というものではありません。ご本人にあっているちょうどよい量を超えて更に増やしてしまうと、よくなるどころか副作用が前面に出てしまい、体全体の総合点としては悪くなってしまう、ということがよくあるのです。

 

 ですから『効いたら止めろ』という言葉で表現される通り、一番少ない量から中核症状改善薬を開始して、少しでも改善しているな、という兆候が見られたら、欲張って薬を増量せずに、その量のまま踏み留まって維持していくことをお勧めしています。

 

 中核症状改善薬の増量については、最近国の方で大きな動きがありました。これまでは、この本人の状態を考えて少ない量で維持する、という本人に優しい治療を邪魔するルールがまかり通っていたのです。『中核症状改善薬の増量規定』と言われるものです。これは3mgで開始して2週間たったら、自動的に5mgに増やさなくてはいけませんよ、それより少ない量の使い方は、保険診療上認めませんよ、という規定です。この規定に従わずに患者さんに優しい処方を通した場合には、最悪の場合保険診療上のペナルティがかされて、処方した分の報酬が医療機関に払われない、ということが現実的に起きていたのです。

 

 少ない薬で患者さんの状態がよくなり、医療費も少なく済んでいるのに、医療機関にペナルティがかされるって、どう考えてもおかしいですよね。これでは患者さんが悪くなることをわかっていながらどんどん薬を増やさざるを得ない、という流れになってしまいます。
こんな現状は何としても変えなくてはいけない!ということで、このようなNPO法人が立ち上がりました。

 

効いたら止めろ

 

増量規定による副作用から患者さんを守ろう、というのが大きな目的です。認知症に携わる者としてスーパー新米の私ですが、町医者の一人として、私も関わらせて頂きました。

 

 厚生労働省が関わるこのようなルールは、なかなか動くのが難しいのでは…と言われていたにも関わらず、関係者の方々の尽力のお蔭で(その熱い気持ちと行動力を目の当たりにしてただただ驚き、感銘を受けました)岩が動きました!なんとH28年の6月に「薬の用量については医師の裁量を尊重するように」という通達が出されるなど、実質上の解決と言ってもよいほどの展開を見せたのです。

 

 そうは言ってもこれでようやくスタートライン。患者さんのためにいい治療をしても非合法ではなくなった(変な言い方ですが…事実なのです)というだけの話なのです。増量すると副作用が出るかもしれませんよ、という事実が、医師にしっかりと周知されるまでは、まだ道半ばです。現に、このような通知がなされた後にも、「増やすことに決まっているから…」と無理に増量されたり、その結果調子が悪くなった…と当院を受診する方は後を絶ちません。

 

 大切な方を見守っているご家族の方も、診察室で薬をもっと増量しましょう…という流れになった時には必ずこのことを思い出して下さいね。ご本人を守れるのは、ご家族だけです。