サーフィンアレンジとは

 著効例というのは、Before→Afterという形でよくなった瞬間を切り取って示されることが多いです。しかし実際には、めでたしめでたしで終わらないのが現実の外来。よくなったと喜んだら翌々月くらいにはちょっと不穏な雰囲気になり、慌てて内服を調整。日々これの繰り返しです。

 

これを‘サーフィンアレンジ’と読んだりします。
サーフィンアレンジとは
一つ波を乗り越えたと思ったら、また次の波が…と一つ一つ波を華麗に超えていくイメージですね。

 

 今日の診察におけるサーフィンアレンジをご紹介。
79歳の女性です。
〇6月某日
診察室に入るなり、「娘さんと喧嘩をした。」「夫がけちで文句を言うから、歯がないのに歯医者に行きたくない!」「先生、血圧の薬を増やして!」「頭も痛いの!」
娘さんいわく「ここ1ヶ月感情が不安定で、攻撃的なこともあります。毎日電話をかけているけれど、あまりの態度なので電話する前にこちらも気持ちの覚悟が必要で、なかば義務感で電話しているんです…。」付き添った娘さんの表情もどんよりと沈んでいます。

 

この状態に対して行ったこと)
・本人には、全身状態をよく保つために歯はしっかりケアした方がよいことを説明。
・気持ちの苛立ちが強いため、弱興奮性のリバスタッチパッチを9mg→4.5mgに減量。
・血圧は確かに151/107mmHgと高めで本人も非常にそれを気にしているため、コニール2→4mgに増量。
・頭痛には釣藤散を試す。
・本人の診察後、娘さんと個別にお話をして傾聴。これでも苛立ちがおさまらない場合は、抑制薬(気持ちが穏やかになる薬)を追加することを検討することを約束した。その間に外来では、受付スタッフが本人と話をして、「娘さんはお母さんを大事に思っているからこうして付き添ってくれているんでしょうよ〜。」とやんわり仲介。本人も「そうだよな…」とわかってはいる様子。

 

〇令和1年7月某日
 本人はニコニコと満面の笑顔。「一応女だからね〜」とほんのりおしろいに紅をさして、髪も明るい色に染めています。(身の回りに注意が向くということは精神的に余裕が出てきた証拠!非常によい兆候です。)あと2回で歯のケアが終わるので、そしたらお肉を沢山食べたいと話してくれました。たんぱく質をしっかり摂ることは非常によいとお話。
後ろにたたずむ娘さんも今日は明るい表情で、「だいぶ落ち着きました。」とのこと。
「だいぶいいから、フェルガードはもうそろそやめてもいいかな〜」と本人。娘さんは慌てて「せっかく今いい状態になったんだから、今やめたら勿体ないよ!」私もうんうんと頷いて、もう少しゆっくり見ていきましょうと話す。

 

 今回の勝因は、リバスタッチパッチを減量したこと、頭痛に対して釣藤散を処方したこと。慢性的な頭痛が和らいで気持ちが上向きになった印象です。
普段そこそこ状態が落ち着いている時には、あまり一度に薬を色々いじることはせず、一つずつ変えていきます。ただ今回は本人のイライラ感がそれなりに強く、家庭全体にその影響が広がっているので少し急ぎました。

 

 今日こんな風にうまくいった!と喜んでも、また来月さ来月には調子が崩れてしまうかもしれません。でもそれでもいいのです。そうしたらまた目の前の状態に合わせて薬を調整するまでのこと。スマートに格好よくとはいかなくても、目の前の患者さんと泥臭く向き合い、、人生に伴走し続けていきたいな、と思うのでした。